
ラノベ作家。主婦の友、フランス書院、COMICユニコーンから出版 『異世界⇔地球間で個人貿易してみた』が6月27日連載開始 過去の著作:累計20万部超 『青雲を駆ける』 『メイドと学ぶ商会経営』 『落札エルフ』 『吸血姫と学ぶ』 『プリハ帝国』等々 お仕事はDMか▶[email protected]
大阪府 大阪市
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自作の『異世界⇔地球間で個人貿易してみた』2巻が
12月26日(金)全国書店・電子書籍で発売決定しました!
amzn.to/3MOkcWI
これも皆さんの応援のおかげです!
表紙イラストがとっても可愛い
ぜひ続きも読んでくださいね
#活俠傳
丐幇の包囲戦では、あなたはほとんど戦役へと出ることはなく、南宮世家で世話になった。
唐門ではけっして食べられない豪華な食事、上質な酒、立派な部屋。
一〇年以上にわたって下働きを続けてきたあなたにとっては、人生でももっとも満ち足りた日々だったかもしれない。
街を散策し、中庭で鍛錬をする日もあれば、魏菊にもらった宋詞選集を詠み、諳んじる日もあった。
丐幇との最終決戦では魏菊が参戦し、王二壯と手合わせするような波乱があり、その際にあなたは王二壯の内力により、あわや命を落とすところだ。
あなたは受けた恩を返すため、想い人である魏菊を失くさないため、命を懸けて彼女を守った。
静観するという考えは一切ない。
王二壯の驚くべく内力はあなたの臓腑をたちまち深く傷つけ、内傷を作った。
その後の鉄琵琶功を取得したことも含め、一つたりとも想定していない事態の連続の日々だ。
そして、江陵から唐門へと、あなた達は帰還した。
玄功門で過ごした日々が早くも懐かしい。
唐門は相変わらず、世界中のどこよりも自分の居場所のように感じるが、一つだけ足りないものがあるとすれば、魏菊が与えてくれた人としての尊厳であろう。
彼女はただの留学生であったあなたを、一人の侠者として立ててくれた。
天性の醜さから、人から遠ざけられ、あるいは侮られ、排除されてきたあなたにとって、初めての体験であった。
外姓弟子として下働きを終え、内力を高めるため修練を続ける内に、魏菊の顔が、声が浮かんでは消えていく。
彼女は師兄として尊重し、あなたははじめて一人の小侠として迎えられた。
詩を通じ、あるいは四書五経を通じてあなたは魏菊に深い想いを抱いている。
崆峒派に留学し、魏掌門に教えを受けたとは言え、あなたは唐門の弟子である。
それに外姓弟子としての仕事は多く、多岐にわたる。
自分も近隣にならば行商に出ることはあるが、長期間身を空けるわけにはいかなかった。
(はるか遠い崆峒へと出向くことは最早ないんだろうな……)
あなたはとてつもない寂しさを抱いた。
そして別れの前に、魏菊が掌派人となれば夫として迎えるのも吝かではない、と照れながら言っていたことを思い出した。
(強くなろう)
入室弟子となり、やがて誰もが認める大侠となってこの想いを成就させるのだ。
ある日、あなたは四師兄が崆峒へ行商に出ると聞いて、手紙を届けてもらえるように頼んだ。
その中には日々の中で思い浮かんでは消えた詩が、一首差し込まれていた。
君、珍宝を賜い、歴練深し。
我をして成長せしむるは、豈に徒だ金ならんや。
愧(は)ずらくは、一物の回報ずるに堪(たえ)うる無し。
不才にして貧賤、忱(まごころ)を奉ずること難し。
栄華は分に非ずして、献ずるを言い難し。
卑微の身、如何に深い恩に報いん。
惟だ此の心のみ、君の盾と為らん。
百害、目前に当たらば、我当に臨まん。
宋詞選集の作と比べるべくもないが、あなたなりの渾身の作であった。
(あら、趙師兄からお手紙ですか)
魏菊の仕事の内容は幅広く、そして細やかなことにまで及ぶ。
彼女の状元にまで上り詰めた頭脳は、的確に次々と物事を進めていくが、この時ばかりは微笑を浮かべ、しばし手を止めた。
茶を淹れ、しばし休憩とする。
手紙の内容はさほど大したことはなかった。
自分が無事平穏に到着し、変わらぬ日々を送りながら、鉄琵琶功を鍛え始めていること。
江陵だけでなく、唐門にも泥教の襲撃はあったが、蜀の深い山林は大きな脅威を迎えることはなかったこと。
(無事で何よりです。しかし趙師兄の字は雲烟飛動、游雲驚竜、見事なものです。それでいて平易暢達にして容与閑易、この辺りは実学を尊ぶ侠者としての資質でしょうか……)
筆の運びにはそのものの技量だけでなく、真意が漏れ出るものだ。
かつて科挙は状元にまで上り詰めた魏菊にとって、その者の選んだ言葉、字句より心中を伺うのはもはや当然のことであった。
何度も何度も文章を繰り返し読み直し、その含意を読み取ろうとする魏菊の顔には、相手を不快にさせないための微笑ではなく、自然な笑みが浮かんでいく。
やがて、手紙を丁寧に折りたたみ、保管用の棚へと移動させようと思った魏菊は、まだ読んでいなかった紙片があることに気づいた。
(あら、なんでしょうか。……七言詩ですわ)
君賜珍寶歷練深、
使我成長豈徒金。
愧無一物堪回報、
不才貧賤難奉忱。
榮華非分難言献、
卑微何以報恩深。
惟有此心為君盾、
百害當前我當臨。
ぼふん、と音を立てて魏菊の顔に火が噴いた。
驚愕とともに脳裏に刻まれた、趙括の命懸けの身代わりの姿が思い出される。
あの時の驚きを、一身に受けた親愛を、魏菊は生涯忘れないだろう。
今もまだ、あの日の言葉が手に取るように思い浮かべることができる。
傷つき今にも倒れそうな趙括は、それでも気迫を湛え、掌を受け止めると大活した。
(うっ、うううう~~~! こ、これでは仕事になりませんわ……!)
(い、いけません。心臓がうるさいぐらいで、平静を失ってしまっています)
魏菊は手ぬぐいを取り出すと、額の汗を拭った。
赤らんだ顔に、ほうっと熱っぽい吐き出す息。
(菊……君が欲しいんだ……なんていけませんわ、活様……わたくし、わたくしは掌派人に嫁ぐ身ですのに……」
気づかぬ内に心内は口から漏れ出し、脳内の妄想はまるで現実のように魏菊を狼狽えさせた。
しばらく、玄功洞では胡乱な目を浮かべる者が多かったとか。
(終わり)
現代語訳
あなたは貴重な宝物をお与えくださり、私が世の中で経験を積み、鍛えられる機会を幾度も与えてくれました。
私を成長させてくださったものは、単なる金銭や宝物ではありません。
それなのに、あなたのご恩に報いるに値するものを、私は何ひとつ持ち合わせていません。
才能もなく、身分も低く、貧しい私には、真心を尽くして恩に報いることさえ難しいのです。
栄華や富貴など、私の身の丈に合わぬもの。それゆえ、あなたに献上できるものもありません。
このように卑しい身の上では、ただ途方に暮れるばかりです。
けれども、あなたを思うこの心だけは、あなたを守る盾となりましょう。
たとえ幾多の問題が目の前に立ちはだかろうとも、私がいる限り、誰もあなたを傷つけることはできません。
私がその矢面に立ち、身を挺して受け止めましょう。
こっちも読んでくれやで
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#活俠傳
あなたと魏菊は、長い戦いを乗り越えて、ついに崆峒派に平和をもたらした。
思えばとても長い戦いだった。
崆峒派の内紛には千灯楼が関わっていて、長年にわたって団結することを阻止されていた上に、内側にも裏切り者がいた状況だ。
あなたは愛する魏菊のために、ありとあらゆる手段を用いて、そしてついに掌派人となった。
さらに唐門の騒動もしっかりと片付け、あらためて掌派人となったあなたは、魏菊に愛を伝えた。
本来であれば四門から嫁をもらうのが長年の習わしであったが、あなたが妻として迎えるのは、愛する魏菊ただ一人。
先例が、祖命が、と最初は緩やかに考え直すように言っていた魏菊だが、あなたの揺るぎない愛情と顔に似合わぬ歯の浮くような言葉の数々に、やがてよろしくお願いいたします、と恥ずかしげに頬を染めて応じた。
そうと決まれば善は急げだ。
あなたは魏菊の手を引くと、そのまま魏菊の居室へと手を引いて歩いた。
「あなたさま……どうか優しくしてくださいませ」
「ああ、もちろんさ、菊。愛しているよ」
醜い面をさらに凶悪にしながら、あなたは答えた。
なんという美しさだろうか。
綺麗に湯汲みし、髪を下ろし、寝間着姿となった魏菊は、自身を鼓舞するために酒を数杯飲み干し、その白磁のごとき玉体を赤らめた。
目は潤み、蕩けた表情で愛する夫を見つめる。
普段の凛とした姿とはまったく違う、あなたにだけ見せる姿だ。
あなたを思う存分に初夜を楽しんだ。
.
.
.
翌日、魏菊は艶々とした顔で朝餉を食べた。
かつて望まぬ男と婚約された時、あるいは掌門として掌派夫人として嫁がなければならなかった時とは違う、愛する男との一夜は、彼女を心から満足させた。
いそいそと支度を整えた魏菊は、身嗜みをしっかりと整え、朝議の場へと足を運んでいたのだが、途中で首を傾げた。
自分を見る目がいつもと違う。
普段の敬意ではなく、興味と興奮、下世話な好奇心といった視線。
なぜ自分がそのような目で見られているのか、もしかして、昨日の閨の営みを誰かが知って言いふらした?
となると奪魄門の連中だろうか。
そんな思考を走らせていた時、あらたに任命された護法である菊風が魏菊の元にやってきた。
「菊護法、どうやらわたくしを見る目が皆さんおかしいのですが、これはどういうことでしょうか?」
「それは……」
前任の菊冬音もそうだが、今代の護法も自他ともに厳しい人物で、その発言は常に真っ直ぐで飾り気がない。
このように口ごもるのは非常に珍しかった。
「どうしましたか? なにか言いづらいことでも?」
「…………左様です。掌派夫人。恐れながら申し上げます。昨夜、掌派夫人様の睦ごとの声が、周辺数里にわたって響き渡っておりました」
「なっ!?」
魏菊の内功の練られた声は、かつて千人以上が集う武林大会の場においてさえ、それをかき消すほどの響きと迫力を持っていた。
いわんや、多くのものが寝静まった深夜に至っては、その声は遥か遠くまで響き渡るほどであった。
本来であれば、このような事態は招かない。
だが、魏菊は強大な鉄琵琶功を厳しい修練によって身につけたわけではなく、引き継いだだけ。
未熟な技術に強大な力、そして閨における精神の高揚が相まって、このような痴態を招いたのだった。
驚愕に目を見開いた魏菊は、自身の恥ずかしい行為を思い出して、顔を真っ赤に染め上げる。
涙を浮かべてプルプルと震えた。
『あああ、あなたさま、菊は、菊はもう……っ!』
突如として脳裏に浮かんだ自分の喘ぎ声を思い出し、頭を抱える。
もっと大変なことも言った。それもいっぱい。
『そんなに激しくされたら、菊は果ててしま――』
あれが、あれが皆に聞かれてしまったというのか。
「ああああああああっ!!」
魏菊は狂乱すると壁に向かって頭を打ち付けた。
心意把を修めていた魏菊のおデコは、鉄琵琶功の内力も加わり、壁に大きな陥没と罅を作る。
ゴンゴンゴン、と激しい音とともに玄功洞が振動する。
「このまま死にたい! 死んでしまいたい……!」
「掌派夫人様、おやめください! そんなことをしても、壁が壊れるばかりですよ」
「うわあああああああ! もっとしっかりと功力の扱い方を修練しておけば! 一生の恥を晒すことはなかったのに!」
この日、崆峒派には掌派夫人が狂乱し、壁に穴を開けたという武勇伝が新たに刻まれることとなった。
#活俠傳
あなたには最近、宝物ができた。
魏菊が精選した当代傑出文人の宋詞選集である。
崆峒派に留学して、たまさか参加することとなった玄功門の季試で、あなたは見事三連勝した。
玄功洞の静かな間にて、あなたの朗々とした声が詩を読み上げる。
韓愈、王安石、あるいは蘇軾。
名だたる詩人、たくさんの名作快作のなか、あなたが特に注目したのは、佚名として作者名の伏せられた作品だった。
(この世には侠客でも詩作に通じる人がいる。俺もそんな感性を大切にしたいものだ)
詩は時に旅の別れを詠い、あるいは風光明媚を詠い、またはこの世の儚さや人との出会いを詠うものだった。
選び抜かれた見事な詩の一字に込められた含意を読み解けば、その度に魂が震えるかと思うほどの感動に襲われる。
紛うことなき絶作である。
あなたは声に出す度に心が震えた。(心相+20:感性+2)
さて、玄功洞にてそのような響く声を発していれば、嫡伝女弟子である魏菊の耳に入らぬわけがない。
立ち並ぶ本棚の片隅で彼女は立ち尽くしていた。
(趙師兄!? ど、どうしてわたくしの作品ばかりを詠み上げるのですか!?)
大いに照れた魏菊の顔は真っ赤に染まり、目は潤い落ち着きがなく、熱の上がった頭頂からは玄功洞の湿を温め、湯気が生まれ出る。
あわあわと狼狽する魏菊が、静けさに満ちたその場所で身を潜めるには無理があった。
あなたは物陰の身じろぐかすかな気配に気づくと、そちらに移動し、おでこに汗を噴き、ワタワタとしている魏菊を見つける。
想い人の意外な姿にあなたは驚くとともに、意外な一面を見て喜んだ。
「こんにちは、趙師兄」
「こんにちは魏掌門。いただいた詩集、ありがとうございました」
「いえいえ、趙師兄に大切にしていただいて、わたくしも嬉しいです」
魏菊は焦りながらも、それとは別に真心からの喜びを伝える。
魏菊の焦りとは裏腹に、あなたは彼女から立ち上る香の上品な香り、そして嬉しそうな表情にクラクラとした。
「どうやら気に入った作品ができたようですが、どのような点を評価されたのですか?」
「この佚名の方の言葉の選び方は只事ではありません。文意は森のように深く、音は鳥の調べのように美しく調和しています。まさに当代きっての名手であり、またその感性、悟性は詩仙にも通じると思います」
「そうですか」
趙括の純粋な評価に、魏菊は嬉しくなった。
「それだけではありません。おそらくこの方は強い克己心があり、道徳を愛し、性状は君子であり、見識は広く深く、深い森や海を思わせながらも、光を失っていません。一人の侠者として深く敬愛すべき人です」
「はわわわ……」
(趙師兄、さすがにそれは褒めすぎです!)
絶賛に継ぐ絶賛の嵐だが、あなたの称賛にはまったく誇張はなく、またこの作者が誰であるか知る由もない。
ひたすらに真心から発される言葉に、魏菊は照れながら聞くしかなかった。
「魏掌門、この詩の講評をお願いできませんか?」
「えー!? えーと、ええと……」
あなたは知らない内に作者に自らの作品を解説させるという暴挙に出た。
頑張って書いたやで
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#活俠傳
あなたと魏菊は、長い戦いを乗り越えて、ついに崆峒派に平和をもたらした。
思えばとても長い戦いだった。
崆峒派の内紛には千灯楼が関わっていて、長年にわたって団結することを阻止されていた上に、内側にも裏切り者がいた状況だ。
あなたは愛する魏菊のために、ありとあらゆる手段を用いて、そしてついに掌派人となった。
さらに唐門の騒動もしっかりと片付け、あらためて掌派人となったあなたは、魏菊に愛を伝えた。
本来であれば四門から嫁をもらうのが長年の習わしであったが、あなたが妻として迎えるのは、愛する魏菊ただ一人。
先例が、祖命が、と最初は緩やかに考え直すように言っていた魏菊だが、あなたの揺るぎない愛情と顔に似合わぬ歯の浮くような言葉の数々に、やがてよろしくお願いいたします、と恥ずかしげに頬を染めて応じた。
そうと決まれば善は急げだ。
あなたは魏菊の手を引くと、そのまま魏菊の居室へと手を引いて歩いた。
「あなたさま……どうか優しくしてくださいませ」
「ああ、もちろんさ、菊。愛しているよ」
醜い面をさらに凶悪にしながら、あなたは答えた。
なんという美しさだろうか。
綺麗に湯汲みし、髪を下ろし、寝間着姿となった魏菊は、自身を鼓舞するために酒を数杯飲み干し、その白磁のごとき玉体を赤らめた。
目は潤み、蕩けた表情で愛する夫を見つめる。
普段の凛とした姿とはまったく違う、あなたにだけ見せる姿だ。
あなたを思う存分に初夜を楽しんだ。
.
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翌日、魏菊は艶々とした顔で朝餉を食べた。
かつて望まぬ男と婚約された時、あるいは掌門として掌派夫人として嫁がなければならなかった時とは違う、愛する男との一夜は、彼女を心から満足させた。
いそいそと支度を整えた魏菊は、身嗜みをしっかりと整え、朝議の場へと足を運んでいたのだが、途中で首を傾げた。
自分を見る目がいつもと違う。
普段の敬意ではなく、興味と興奮、下世話な好奇心といった視線。
なぜ自分がそのような目で見られているのか、もしかして、昨日の閨の営みを誰かが知って言いふらした?
となると奪魄門の連中だろうか。
そんな思考を走らせていた時、あらたに任命された護法である菊風が魏菊の元にやってきた。
「菊護法、どうやらわたくしを見る目が皆さんおかしいのですが、これはどういうことでしょうか?」
「それは……」
前任の菊冬音もそうだが、今代の護法も自他ともに厳しい人物で、その発言は常に真っ直ぐで飾り気がない。
このように口ごもるのは非常に珍しかった。
「どうしましたか? なにか言いづらいことでも?」
「…………左様です。掌派夫人。恐れながら申し上げます。昨夜、掌派夫人様の睦ごとの声が、周辺数里にわたって響き渡っておりました」
「なっ!?」
魏菊の内功の練られた声は、かつて千人以上が集う武林大会の場においてさえ、それをかき消すほどの響きと迫力を持っていた。
いわんや、多くのものが寝静まった深夜に至っては、その声は遥か遠くまで響き渡るほどであった。
本来であれば、このような事態は招かない。
だが、魏菊は強大な鉄琵琶功を厳しい修練によって身につけたわけではなく、引き継いだだけ。
未熟な技術に強大な力、そして閨における精神の高揚が相まって、このような痴態を招いたのだった。
驚愕に目を見開いた魏菊は、自身の恥ずかしい行為を思い出して、顔を真っ赤に染め上げる。
涙を浮かべてプルプルと震えた。
『あああ、あなたさま、菊は、菊はもう……っ!』
突如として脳裏に浮かんだ自分の喘ぎ声を思い出し、頭を抱える。
もっと大変なことも言った。それもいっぱい。
『そんなに激しくされたら、菊は果ててしま――』
あれが、あれが皆に聞かれてしまったというのか。
「ああああああああっ!!」
魏菊は狂乱すると壁に向かって頭を打ち付けた。
心意把を修めていた魏菊のおデコは、鉄琵琶功の内力も加わり、壁に大きな陥没と罅を作る。
ゴンゴンゴン、と激しい音とともに玄功洞が振動する。
「このまま死にたい! 死んでしまいたい……!」
「掌派夫人様、おやめください! そんなことをしても、壁が壊れるばかりですよ」
「うわあああああああ! もっとしっかりと功力の扱い方を修練しておけば! 一生の恥を晒すことはなかったのに!」
この日、崆峒派には掌派夫人が狂乱し、壁に穴を開けたという武勇伝が新たに刻まれることとなった。
#活俠傳
あなたと魏菊は、長い戦いを乗り越えて、ついに崆峒派に平和をもたらした。
思えばとても長い戦いだった。
崆峒派の内紛には千灯楼が関わっていて、長年にわたって団結することを阻止されていた上に、内側にも裏切り者がいた状況だ。
あなたは愛する魏菊のために、ありとあらゆる手段を用いて、そしてついに掌派人となった。
さらに唐門の騒動もしっかりと片付け、あらためて掌派人となったあなたは、魏菊に愛を伝えた。
本来であれば四門から嫁をもらうのが長年の習わしであったが、あなたが妻として迎えるのは、愛する魏菊ただ一人。
先例が、祖命が、と最初は緩やかに考え直すように言っていた魏菊だが、あなたの揺るぎない愛情と顔に似合わぬ歯の浮くような言葉の数々に、やがてよろしくお願いいたします、と恥ずかしげに頬を染めて応じた。
そうと決まれば善は急げだ。
あなたは魏菊の手を引くと、そのまま魏菊の居室へと手を引いて歩いた。
「あなたさま……どうか優しくしてくださいませ」
「ああ、もちろんさ、菊。愛しているよ」
醜い面をさらに凶悪にしながら、あなたは答えた。
なんという美しさだろうか。
綺麗に湯汲みし、髪を下ろし、寝間着姿となった魏菊は、自身を鼓舞するために酒を数杯飲み干し、その白磁のごとき玉体を赤らめた。
目は潤み、蕩けた表情で愛する夫を見つめる。
普段の凛とした姿とはまったく違う、あなたにだけ見せる姿だ。
あなたを思う存分に初夜を楽しんだ。
.
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翌日、魏菊は艶々とした顔で朝餉を食べた。
かつて望まぬ男と婚約された時、あるいは掌門として掌派夫人として嫁がなければならなかった時とは違う、愛する男との一夜は、彼女を心から満足させた。
いそいそと支度を整えた魏菊は、身嗜みをしっかりと整え、朝議の場へと足を運んでいたのだが、途中で首を傾げた。
自分を見る目がいつもと違う。
普段の敬意ではなく、興味と興奮、下世話な好奇心といった視線。
なぜ自分がそのような目で見られているのか、もしかして、昨日の閨の営みを誰かが知って言いふらした?
となると奪魄門の連中だろうか。
そんな思考を走らせていた時、あらたに任命された護法である菊風が魏菊の元にやってきた。
「菊護法、どうやらわたくしを見る目が皆さんおかしいのですが、これはどういうことでしょうか?」
「それは……」
前任の菊冬音もそうだが、今代の護法も自他ともに厳しい人物で、その発言は常に真っ直ぐで飾り気がない。
このように口ごもるのは非常に珍しかった。
「どうしましたか? なにか言いづらいことでも?」
「…………左様です。掌派夫人。恐れながら申し上げます。昨夜、掌派夫人様の睦ごとの声が、周辺数里にわたって響き渡っておりました」
「なっ!?」
魏菊の内功の練られた声は、かつて千人以上が集う武林大会の場においてさえ、それをかき消すほどの響きと迫力を持っていた。
いわんや、多くのものが寝静まった深夜に至っては、その声は遥か遠くまで響き渡るほどであった。
本来であれば、このような事態は招かない。
だが、魏菊は強大な鉄琵琶功を厳しい修練によって身につけたわけではなく、引き継いだだけ。
未熟な技術に強大な力、そして閨における精神の高揚が相まって、このような痴態を招いたのだった。
驚愕に目を見開いた魏菊は、自身の恥ずかしい行為を思い出して、顔を真っ赤に染め上げる。
涙を浮かべてプルプルと震えた。
『あああ、あなたさま、菊は、菊はもう……っ!』
突如として脳裏に浮かんだ自分の喘ぎ声を思い出し、頭を抱える。
もっと大変なことも言った。それもいっぱい。
『そんなに激しくされたら、菊は果ててしま――』
あれが、あれが皆に聞かれてしまったというのか。
「ああああああああっ!!」
魏菊は狂乱すると壁に向かって頭を打ち付けた。
心意把を修めていた魏菊のおデコは、鉄琵琶功の内力も加わり、壁に大きな陥没と罅を作る。
ゴンゴンゴン、と激しい音とともに玄功洞が振動する。
「このまま死にたい! 死んでしまいたい……!」
「掌派夫人様、おやめください! そんなことをしても、壁が壊れるばかりですよ」
「うわあああああああ! もっとしっかりと功力の扱い方を修練しておけば! 一生の恥を晒すことはなかったのに!」
この日、崆峒派には掌派夫人が狂乱し、壁に穴を開けたという武勇伝が新たに刻まれることとなった。
こっちも書いたで
xitter.cf/HizenHumitoshi/status/…
#活俠傳
丐幇の包囲戦では、あなたはほとんど戦役へと出ることはなく、南宮世家で世話になった。
唐門ではけっして食べられない豪華な食事、上質な酒、立派な部屋。
一〇年以上にわたって下働きを続けてきたあなたにとっては、人生でももっとも満ち足りた日々だったかもしれない。
街を散策し、中庭で鍛錬をする日もあれば、魏菊にもらった宋詞選集を詠み、諳んじる日もあった。
丐幇との最終決戦では魏菊が参戦し、王二壯と手合わせするような波乱があり、その際にあなたは王二壯の内力により、あわや命を落とすところだ。
あなたは受けた恩を返すため、想い人である魏菊を失くさないため、命を懸けて彼女を守った。
静観するという考えは一切ない。
王二壯の驚くべく内力はあなたの臓腑をたちまち深く傷つけ、内傷を作った。
その後の鉄琵琶功を取得したことも含め、一つたりとも想定していない事態の連続の日々だ。
そして、江陵から唐門へと、あなた達は帰還した。
玄功門で過ごした日々が早くも懐かしい。
唐門は相変わらず、世界中のどこよりも自分の居場所のように感じるが、一つだけ足りないものがあるとすれば、魏菊が与えてくれた人としての尊厳であろう。
彼女はただの留学生であったあなたを、一人の侠者として立ててくれた。
天性の醜さから、人から遠ざけられ、あるいは侮られ、排除されてきたあなたにとって、初めての体験であった。
外姓弟子として下働きを終え、内力を高めるため修練を続ける内に、魏菊の顔が、声が浮かんでは消えていく。
彼女は師兄として尊重し、あなたははじめて一人の小侠として迎えられた。
詩を通じ、あるいは四書五経を通じてあなたは魏菊に深い想いを抱いている。
崆峒派に留学し、魏掌門に教えを受けたとは言え、あなたは唐門の弟子である。
それに外姓弟子としての仕事は多く、多岐にわたる。
自分も近隣にならば行商に出ることはあるが、長期間身を空けるわけにはいかなかった。
(はるか遠い崆峒へと出向くことは最早ないんだろうな……)
あなたはとてつもない寂しさを抱いた。
そして別れの前に、魏菊が掌派人となれば夫として迎えるのも吝かではない、と照れながら言っていたことを思い出した。
(強くなろう)
入室弟子となり、やがて誰もが認める大侠となってこの想いを成就させるのだ。
ある日、あなたは四師兄が崆峒へ行商に出ると聞いて、手紙を届けてもらえるように頼んだ。
その中には日々の中で思い浮かんでは消えた詩が、一首差し込まれていた。
君、珍宝を賜い、歴練深し。
我をして成長せしむるは、豈に徒だ金ならんや。
愧(は)ずらくは、一物の回報ずるに堪(たえ)うる無し。
不才にして貧賤、忱(まごころ)を奉ずること難し。
栄華は分に非ずして、献ずるを言い難し。
卑微の身、如何に深い恩に報いん。
惟だ此の心のみ、君の盾と為らん。
百害、目前に当たらば、我当に臨まん。
宋詞選集の作と比べるべくもないが、あなたなりの渾身の作であった。
(あら、趙師兄からお手紙ですか)
魏菊の仕事の内容は幅広く、そして細やかなことにまで及ぶ。
彼女の状元にまで上り詰めた頭脳は、的確に次々と物事を進めていくが、この時ばかりは微笑を浮かべ、しばし手を止めた。
茶を淹れ、しばし休憩とする。
手紙の内容はさほど大したことはなかった。
自分が無事平穏に到着し、変わらぬ日々を送りながら、鉄琵琶功を鍛え始めていること。
江陵だけでなく、唐門にも泥教の襲撃はあったが、蜀の深い山林は大きな脅威を迎えることはなかったこと。
(無事で何よりです。しかし趙師兄の字は雲烟飛動、游雲驚竜、見事なものです。それでいて平易暢達にして容与閑易、この辺りは実学を尊ぶ侠者としての資質でしょうか……)
筆の運びにはそのものの技量だけでなく、真意が漏れ出るものだ。
かつて科挙は状元にまで上り詰めた魏菊にとって、その者の選んだ言葉、字句より心中を伺うのはもはや当然のことであった。
何度も何度も文章を繰り返し読み直し、その含意を読み取ろうとする魏菊の顔には、相手を不快にさせないための微笑ではなく、自然な笑みが浮かんでいく。
やがて、手紙を丁寧に折りたたみ、保管用の棚へと移動させようと思った魏菊は、まだ読んでいなかった紙片があることに気づいた。
(あら、なんでしょうか。……七言詩ですわ)
君賜珍寶歷練深、
使我成長豈徒金。
愧無一物堪回報、
不才貧賤難奉忱。
榮華非分難言献、
卑微何以報恩深。
惟有此心為君盾、
百害當前我當臨。
ぼふん、と音を立てて魏菊の顔に火が噴いた。
驚愕とともに脳裏に刻まれた、趙括の命懸けの身代わりの姿が思い出される。
あの時の驚きを、一身に受けた親愛を、魏菊は生涯忘れないだろう。
今もまだ、あの日の言葉が手に取るように思い浮かべることができる。
傷つき今にも倒れそうな趙括は、それでも気迫を湛え、掌を受け止めると大活した。
(うっ、うううう~~~! こ、これでは仕事になりませんわ……!)
(い、いけません。心臓がうるさいぐらいで、平静を失ってしまっています)
魏菊は手ぬぐいを取り出すと、額の汗を拭った。
赤らんだ顔に、ほうっと熱っぽい吐き出す息。
(菊……君が欲しいんだ……なんていけませんわ、活様……わたくし、わたくしは掌派人に嫁ぐ身ですのに……」
気づかぬ内に心内は口から漏れ出し、脳内の妄想はまるで現実のように魏菊を狼狽えさせた。
しばらく、玄功洞では胡乱な目を浮かべる者が多かったとか。
(終わり)
現代語訳
あなたは貴重な宝物をお与えくださり、私が世の中で経験を積み、鍛えられる機会を幾度も与えてくれました。
私を成長させてくださったものは、単なる金銭や宝物ではありません。
それなのに、あなたのご恩に報いるに値するものを、私は何ひとつ持ち合わせていません。
才能もなく、身分も低く、貧しい私には、真心を尽くして恩に報いることさえ難しいのです。
栄華や富貴など、私の身の丈に合わぬもの。それゆえ、あなたに献上できるものもありません。
このように卑しい身の上では、ただ途方に暮れるばかりです。
けれども、あなたを思うこの心だけは、あなたを守る盾となりましょう。
たとえ幾多の問題が目の前に立ちはだかろうとも、私がいる限り、誰もあなたを傷つけることはできません。
私がその矢面に立ち、身を挺して受け止めましょう。
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#活俠傳
あなたには最近、宝物ができた。
魏菊が精選した当代傑出文人の宋詞選集である。
崆峒派に留学して、たまさか参加することとなった玄功門の季試で、あなたは見事三連勝した。
玄功洞の静かな間にて、あなたの朗々とした声が詩を読み上げる。
韓愈、王安石、あるいは蘇軾。
名だたる詩人、たくさんの名作快作のなか、あなたが特に注目したのは、佚名として作者名の伏せられた作品だった。
(この世には侠客でも詩作に通じる人がいる。俺もそんな感性を大切にしたいものだ)
詩は時に旅の別れを詠い、あるいは風光明媚を詠い、またはこの世の儚さや人との出会いを詠うものだった。
選び抜かれた見事な詩の一字に込められた含意を読み解けば、その度に魂が震えるかと思うほどの感動に襲われる。
紛うことなき絶作である。
あなたは声に出す度に心が震えた。(心相+20:感性+2)
さて、玄功洞にてそのような響く声を発していれば、嫡伝女弟子である魏菊の耳に入らぬわけがない。
立ち並ぶ本棚の片隅で彼女は立ち尽くしていた。
(趙師兄!? ど、どうしてわたくしの作品ばかりを詠み上げるのですか!?)
大いに照れた魏菊の顔は真っ赤に染まり、目は潤い落ち着きがなく、熱の上がった頭頂からは玄功洞の湿を温め、湯気が生まれ出る。
あわあわと狼狽する魏菊が、静けさに満ちたその場所で身を潜めるには無理があった。
あなたは物陰の身じろぐかすかな気配に気づくと、そちらに移動し、おでこに汗を噴き、ワタワタとしている魏菊を見つける。
想い人の意外な姿にあなたは驚くとともに、意外な一面を見て喜んだ。
「こんにちは、趙師兄」
「こんにちは魏掌門。いただいた詩集、ありがとうございました」
「いえいえ、趙師兄に大切にしていただいて、わたくしも嬉しいです」
魏菊は焦りながらも、それとは別に真心からの喜びを伝える。
魏菊の焦りとは裏腹に、あなたは彼女から立ち上る香の上品な香り、そして嬉しそうな表情にクラクラとした。
「どうやら気に入った作品ができたようですが、どのような点を評価されたのですか?」
「この佚名の方の言葉の選び方は只事ではありません。文意は森のように深く、音は鳥の調べのように美しく調和しています。まさに当代きっての名手であり、またその感性、悟性は詩仙にも通じると思います」
「そうですか」
趙括の純粋な評価に、魏菊は嬉しくなった。
「それだけではありません。おそらくこの方は強い克己心があり、道徳を愛し、性状は君子であり、見識は広く深く、深い森や海を思わせながらも、光を失っていません。一人の侠者として深く敬愛すべき人です」
「はわわわ……」
(趙師兄、さすがにそれは褒めすぎです!)
絶賛に継ぐ絶賛の嵐だが、あなたの称賛にはまったく誇張はなく、またこの作者が誰であるか知る由もない。
ひたすらに真心から発される言葉に、魏菊は照れながら聞くしかなかった。
「魏掌門、この詩の講評をお願いできませんか?」
「えー!? えーと、ええと……」
あなたは知らない内に作者に自らの作品を解説させるという暴挙に出た。
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